JRA順調コントレイルの裏に「歴代ホースマン」の英知。「厩務員が泣いた」ディープインパクト、「単勝1.0倍裏切る」ナリタブライアンが陥った夏のワナ
この夏は鳥取県の大山ヒルズで過ごし、今月4日に帰厩。矢作芳人調教師が「良くなり過ぎているくらい。とにかく順調に来ているよ」と言えば、1週前追い切りに跨った主戦の福永祐一騎手も「トモが春とは全然違う。いい夏を過ごせた証拠」と改めて順調さを強調。
しかし、改めて「歴史」を紐解いてみると、これまで培われてきたホースマンたちの努力と英知が、今のコントレイルの順調さに少なからず関係していることがわかる。
当時、その最大の敗因と言われたのが日本ダービー後の「夏の過ごし方」だった。
北海道の早田牧場新冠支場で生を受けたナリタブライアンだったが、陣営が夏の拠点として選んだのは、函館・札幌競馬場の厩舎だった。避暑的な意味合いはもちろんのこと、それ以上に陣営が懸念したのが、放牧によって馬体が緩み過ぎることだ。
コントレイルのような無敗ではなかったものの、後にトレードマークとなるシャドーロールを装着してからは6連勝。三冠制覇へ周囲の期待はもちろんのこと、簡単に負けていい存在ではなかったからこそ、陣営は“手元”に置くことに拘ったのだ。
しかし、その采配が裏目に出る。異例の長さの在厩にナリタブライアンが大きく体調を崩したのだ。まともな調教もできないまま陣営は一時、菊花賞を断念することも考えたが、なんとか始動戦となった京都新聞杯へ。最後の直線で一度は先頭に立つも、最後はスターマンの強襲を許し、連勝は6でストップしている。
圧倒的な強さで日本ダービーを快勝したディープインパクトだったが、陣営は放牧に出さずに札幌の厩舎で調整することを選択。結果的には、長期の在厩で体調を維持する困難を乗り越え、見事始動戦の神戸新聞杯を快勝したディープインパクトだったがレース後、不安から解放された市川明彦厩務員は泣いていたという。三冠に対するプレッシャーと在厩調整の難しさを物語ったエピソードだ。
東西のトレセン顔負けの調教施設が完備されており、「放牧」と「調整」を同時に実現させる昔のホースマンからすれば夢のような施設。滋賀県の栗東トレセンから、車で約30分という近郊であれば、陣営からすれば手元に置いているも同然だろう。
また、管理する池江泰寿調教師が「北海道での放牧では、戻ってきた時に気温差で体調を崩すかもしれない」と考慮した判断も的を射ていた。結果的にオルフェーヴルは始動戦の神戸新聞杯を難なく快勝し、菊花賞でもその強さを見せつけている。
「大山(ヒルズ)の方で非常にいい夏を過ごすことができましたし、乗っていてもそれを実感できています」
そう『サンスポ』の取材に答えた福永騎手。史上8頭目の三冠制覇へ、陣営にとって「夏の過ごし方」という最大のヤマ場を極めて順調に乗り越えたといっていいだろう。