JRA川田将雅「この子は何も悪くない」スプリンターズS(G1)あの「悲劇」の涙から10年。師匠・安田隆行調教師に送る「感謝」のG1勝利へ
「記録」よりも「記憶」に残る馬がいる。
ダッシャーゴーゴーも、まさにそんな馬だったのではないだろうか。
スプリンターズSでは、1枠2番の内枠からスタート。終始内々を回ったレース運びで最後の直線へ入った。レースを引っ張った香港からの刺客ウルトラファンタジーが粘る中、これにゴール前詰め寄ったのがダッシャーゴーゴー。
クビの上げ下げとなったが、最後は「ハナ差」凌いだウルトラファンタジーがこのレースを制した。しかし、2着入線のダッシャーゴーゴーは、まさかの降着。直線で内側に斜行しサンカルロの進路を妨害したとして、4着となったのである。
しかし、この「悲劇」は序章に過ぎなかった。
レース序盤の先行争い。7枠13番からスタートしたダッシャーゴーゴーは、先行するべく内へ進路を寄せていく。直線では早め先頭に立つも、最後は粘り切れずに4着惜敗……と思われた。だが、約半年前の「悲劇」は、同じくG1で繰り返される事となる。今度は3コーナーで進路を内に寄せた際、ジョーカプチーノを妨害したとして11着に降着となったのだ。
まさかの、G1で2戦連続の降着……。
58.5㎏のトップハンデ。決して状況は楽ではなかったはずだ。しかし、この日の川田騎手は冷静であった。スタートからじっくりと後方で脚を溜めると、直線ではスムーズに外へ持ち出し見事勝利をもぎ取った。
レース後、川田騎手は安堵の気持ちからか、感極まって涙した。
「この子は何も悪くない。僕が下手なばかりに申し訳ないことをした。今は、ありがとうと言いたい」と馬を労う感謝の気持ちを口にした。
その後、リーディング上位の騎手へと成長を遂げた川田騎手。ファインニードルで高松宮記念、スプリンターズSを春秋連覇するなど、スプリントG1でも快挙を成し遂げている。川田騎手の心の中には、きっとダッシャーゴーゴーやその関係者、師匠・安田隆行調教師への感謝の気持ちもあっただろう。
「悲劇」のスプリンターズSから約10年。
あの時と同じ安田調教師がダノンスマッシュに川田騎手を乗せ続けるのも、あの時の記憶がまだ残っているのではないだろうか。
師弟コンビで挑むスプリンターズS。
「いまの将雅なら……」
そんな気持ちが、安田調教師にはあるのかもしれない。