JRA重なるアーモンドアイと武豊キタサンブラックの記憶。天皇賞・秋(G1)「限界説」否定を懸け「最強の重巧者」を迎え撃つ
『netkeiba.com』の事前オッズによると、アーモンドアイの単勝1.5倍に、クロノジェネシスが2.9倍で続き、3番人気が想定されるダノンキングリーが12.3倍。まさに「2強」の激突という様相を呈している。
今週の天皇賞・秋にも出走するキセキが、台風21号による極悪馬場をものともせずにG1初制覇を飾った菊花賞(G1)の翌週。日本列島は台風22号の“おかわり”を食らい、東京競馬場は史上稀に見る不良馬場だった。
この年の主役は当時、すでにG1を5勝していたキタサンブラック。現役最強の名を欲しいままにしていたが、単勝1.4倍に推された前走の宝塚記念(G1)で、まさかの9着惨敗……。「限界説」がにわかに囁かれ始めていたのは、今秋の復権を狙うアーモンドアイの境遇と似ているところがある。ちなみに天皇賞・秋の単勝オッズは3.1倍だった。
そして、何よりも良馬場での能力を疑問視されている点も同じである。
ただ、サトノクラウンにとって幸いだったのは、この2017年の天皇賞・秋が歴史に残る不良馬場だったことだ。キタサンブラックに引導を渡し、現役最強の座に取って代わるには、まさに「ここしかない」という一戦だった。
さらにキタサンブラックに大きな試練が降りかかる。ゲートが開く前に突進してしまい、出遅れてしまったのだ。競馬史の中でも屈指の逃げ馬の1頭に数えられる本馬にとって、1コーナーを二ケタ(11番手)で回ったのは、後にも先にもこのレースだけだった。
そんな絶体絶命の危機でも、百戦錬磨の武豊騎手は冷静だった。「こういう馬場でもこなしてくれる自信がありました」と振り返っている通り、武豊騎手はキタサンブラックがサトノクラウンに勝るとも劣らない重馬場巧者であることを悟っていたのだ。
サトノクラウンを含めたライバルたちが荒れた馬場を嫌って、やや内を空けてレースを進める中、キタサンブラックはそれこそがビクトリーロードと言わんばかりに、最内からスルスルとポジションを上げていく。最後の直線の入り口で、一度は終わったと思われた本馬が先頭に“出現”した際は、誰もが度肝を抜かれたに違いない。
しかし、負けられないのはサトノクラウンの方だ。これだけの極悪な馬場でキタサンブラックを迎え撃てるのは、後にも先にも今回だけだろう。M.デムーロ騎手の激に応え、サトノクラウンが重巧者の意地に懸けて王者に食らいつく。
武豊騎手が「早く先頭に立ちすぎた」と語った通り、残りはまだ400mある。数々の名勝負を生んできた中でも、あまりに長く、あまりに壮絶な府中の最後の直線。一度は1馬身以上離れた両者の差が、少しずつ縮まっていく。
「よく頑張ってくれた。馬場も他の馬と比較すると大丈夫だったし、手応えがなくなりそうだったけど、ファイトバックしてくれた。ただ、勝ち馬が止まらなかった」
レース後、サトノクラウンのデムーロ騎手はそう王者キタサンブラックを称えた。サトノクラウンはその後、馬場……いや、天候にも恵まれず惨敗を繰り返して、翌年のジャパンCを最後に引退。勝ったのは牝馬三冠を成し遂げ、堂々の世代交代を告げた若きアーモンドアイだった。
「これだけの馬に乗せてもらっていますから、本当にホッとしています」