JRA「千直マイスター」がかえって裏目!? ライオンボスはなぜアイビスS(G3)で控える競馬を試したのか
その一方、単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持されたライオンボス(牡5、美浦・和田正一郎厩舎)にとっては非常に厳しい結果となった。2番人気とはいえジョーカナチャンの単勝は7.8倍であり、戦前の下馬評ではライオンボスの勝利が濃厚と見られていたなかでの敗戦だ。
折りしもこの日のWIN5は、先週19日の対象レースが大波乱に終わり、的中者なしのキャリーオーバーとなっていた。4億6409万1040円が繰り越されたこともあり、この日の売上はWIN5史上2位となる約33億8133万円を記録した。それだけに対象5レース目となったアイビスサマーダッシュのライオンボスでWIN5的中を狙ったファンが大勢いたであろう。
レースは好スタートを決めたジョーカナチャンが外ラチ目掛けて積極果敢に先手を主張した。これに対してライオンボスはスタートこそ決めたものの、鞍上の鮫島克騎手は逃げには拘らなかった。ライバルを先にやり、内から外を狙ってきたラブカンプーよりも後ろの位置取りだった。
勝負の分かれ目となったのはおそらくここだろう。ライオンボスが主張しなかったことでジョーカナチャンはまんまと大外のポジションを奪い取ることに成功したのである。気分良く先頭を走るジョーカナチャンに対し後手に回ったライオンボスはアタマ差で勝利を逃がしてしまった。
惜敗の結果に鮫島克騎手は「前半はジョーカナチャンの方が速く、行けませんでした」と振り返ったが、強気に乗った菱田騎手と控える競馬を選択したライオンボスとの差が明暗を分けたかもしれない。
迫力十分だった昨年の追い切りに対し、今年は軽い調整に留めていた。陣営は予定通りとジャッジしたが、前に馬を置いて交わす追い切りを危惧する声も少なからずあったことは確かだ。
「追い切り後に和田調教師がハナに行ければそれでいいが、番手の形もありうるとコメントしていたことからも、控える競馬を想定していた可能性が高く、鮫島克騎手のハナ争いに拘らなかったことにも合点がいきます。
これは1000m戦の距離しか勝ち星のないライオンボスの距離延長を見据えての作戦だった可能性が高そうです。千直のエキスパートといえども新潟の舞台しかないのでは、どうしても活躍の場が限られてしまいますからね」(競馬記者)
ライオンボスの戦績は新潟の千直に限れば【4.2.0.0】とほぼ完璧な結果を残している。ダートの1000mで4戦2勝とはいえ、未勝利と1勝クラスでのもの。また、1000mを超える距離では見せ場すらない惨敗ばかりと極端だ。
唯一、輝ける場所として辿り着いたのが新潟の千直だったが、結果を残したがために今度は斤量を背負わされるリスクが立ちはだかった。秋のルミエールAD(L)にしても昨年は58キロのハンデを背負って2着に敗れた。今年出走した場合は60キロを背負うことになる。
韋駄天S(OP)では外枠でハンデも軽かったジョーカナチャンを捉え、アイビスSDではライオンボスが外枠の上にハンデも4.5キロ差から3キロ差に縮まり、条件は好転していた。
にもかかわらず、先を見据えたがための控える競馬で2着に敗れたことは、陣営にとっても大きな誤算となったのではないだろうか。
「安住の地」だったはずの新潟で花開いた千直マイスターにとっては苦難の秋が待っていそうだ。